*****少しでも早く情報を提供することで、必要以上の混乱を避けることが出来ればと思い、まだ途中ですが、私たちが理解し、まとめることが出来た部分について、順次掲載して行くことにしました。この件に関し、問題意識をお持ち下さる方々に、時折、このサイトをご訪問して頂ければ幸いです。



*SMA(脊髄性筋萎縮症)に関する資料のまとめ




1)SMAの症状について

メインクーンにみられるSMAは、生後15〜17週に兆候が現れる。最初の異常は後ろ足が弱くなる事と、かすかな震えである。脊髄運動神経の分解に伴い、筋肉が弱くなり、変性する。

罹患した子猫は、5カ月時までに、ジャンプする能力をなくし、その後、後ろ足の揺れを伴うような歩行をするようになる。罹患猫は、膝(hock:飛節)で立ち、後ろ足の先が、中央から約30〜40度の角度で、外側に開く。このような立ち方は、近位の筋肉が弱くなった場合に、安定性を得るためにとられる姿勢であろう。筋肉の変性は、まず足の筋肉に現れ、特に後ろ足で顕著であるが、次第に広がっていく。

呼吸が荒くなるといったことが、若年期の罹患猫に観察される場合があり、その程度は様々である。全ての罹患猫は、部屋を横切る時、しばしば座るか、横になる。

胸腰部の背側から尾へとの知覚過敏が、6〜12カ月令の子猫のいくつかに観察されるが、その後解消する。

8〜12カ月時に見られる初期のこのような急激な機能障害の後、筋肉の萎縮、弱体化、可動性の変化はゆっくりとなり、定常状態となる。

我々(Dr.Fyfeの研究グループ)が観察したもっとも、年齢が上で重傷の罹患猫は現在4歳を越えているが、彼は彼のトイレを使うことが出来ず、柔らかいフードを食べているが、まだ機敏さを残している。まれではあるが、彼はカーペットを敷いた階段を前足を使って、自分の体を引き上げる事で、き登る事が出来る。報告されているある一頭の猫で、7歳まで生き延びている例があるが、その年齢にしては、重篤な無力化を伴っていた。

雄と雌と両方の罹患猫が出た二腹の子猫の達の例では、雄の方が重傷であった。この姉妹は、2.4歳と3歳で、広く筋変性は生じているが、いくぶん高いレベルまで機能は残っている。症例はまだ少ないが、こう言った観察は、ヒトの場合の女性患者で、性差による影響で重傷度が軽減されると報告されているSMA III型を思い浮かばせる。ヒトに置いては症状は様々であるが、発症年齢やこの猫のファミリーで観察される早期の進行性の機能消失といった面は、ヒトのそれと良く一致している。生涯を通しての、筋肉の弱体化や無力化は、数年間の、ある程度の生活の質を維持できる程度に代償可能である。

訳者注1:ヒトのSMAについての一般的なQ&A(日本語)はこちらをご参照下さい。

訳者注2:SMAの臨床的な症状を記述しても、具体的にイメージがつかめないかと思います。実際に罹患猫を見た方は「彼女を見るのはとても辛かった。ほんの数歩歩いただけで、息があがって、彼女は休まなければならなかった。彼女は後ろ足を自分の体の後ろに引きずっていたのよ、、、」とコメントしていました。


2)SMAの遺伝形式

常染色体劣性の遺伝形式を取る。

訳者注釈:
 SMAは現時点では臨床検査的に血液検査等でキャリアの診断が出来る訳ではありません。病因となる遺伝子変異が同定されて、それを元に遺伝子診断でキャリアの診断が出来るようになるまでは、この遺伝子に関して正常な猫とキャリアの猫は区別出来ないでしょう。現時点で分かることは、遺伝様式から確定出来るか推定できるキャリアである可能性という事です。

*両親が疾患猫から生まれて来る子猫は全てこの病気を発症する疾患猫です。

*片親が疾患猫で、遺伝的にキャリアでない正常な猫と掛けた場合、生まれてくる子猫の全てはキャリアです。けれども見た目は正常の猫と変らず、生涯に渡ってこの病気を発症する事はないでしょう。

(疾患猫は、発症が比較的早期であることから、繁殖可能年齢に達する前に恐らく発見出来るでしょう。疾患猫が実際に繁殖可能な体の状態であるかどうかは分かりませんし、ブリーダーも繁殖に疾患の猫を使いはしないでしょうから、単に理論的にはという事です。)

*見た目に正常な両親からSMAの子猫が生まれた場合、その両親はともにSMAのキャリアです。

*逆の言い方をすれば、両親共にキャリアの場合、生まれて来る子猫の1/4は疾患の猫です。さらに、その腹の正常な兄弟達の2/3はキャリアで、残り1/3 は遺伝的にも全く正常な子猫です。(けれども正常な子猫とキャリアの子猫を現時点で判定する事は出来ません。)

*キャリアの猫と、遺伝的に正常な猫をかけ合わせた場合は、1/2がキャリアで1/2が正常な猫です。

*キャリアの可能性のある猫について、キャリアかどうかを判断する現時点での唯一の手がかりは、その猫をキャリアとはっきりしている猫に掛け戻してみることです。もしキャリアなら確率的には、上記で書きましたように1/4の確率で疾患猫が生まれて来ます。それは悪までも確率の上ではと言うことですから、ある程度の数の子猫をその組み合わせで取ってみて、一頭もSMAの猫が生まれなければ、キャリアではないだろうと推測出来ますし、もしSMAの子猫が一頭でも生まれればその猫は間違いなくキャリアでしょう。



3)Susan Leeの2001年6月のレポート

SMA (Spinal Muscular Atrophy) の現状

背景

 運動神経変性性の病気で、脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy:SMA)がメインクーンの中に同定されました。アメリカの全てのリジョンで、沢山の州のメインクーンキャットでこの病気の存在することが、明らかにされました。この病気は明らかに、常染色体劣性の遺伝形式をとります。

 John Fyfe博士はミシガン州立大学の学科の獣医師で遺伝学者で、この病気を研究し、原因遺伝子を同定することを決意していらっしゃいます。Dr. Fyfe はノルウェージャンフォレトキャットのグリコーゲン蓄積病を引き起こす欠損遺伝子を明らかにするチームの指導的研究者でいらっしゃいました。

研究のゴール

1 この病気の原因となる遺伝子変異を決定する。

2 キャリアやキャリアの子孫をブリードプログラムから排除するために、キャリアーを同定するための信頼性のあるPCR に基づいた検査法を開発する。

この目標のために、cheek swaba(頬の内側の粘膜の細胞を拭い取ったサンプル), 血液、組織サンプルが、この疾患の猫や、キャリアーの猫、疾患猫の兄弟や祖父母猫といった多くの猫から集められました。ブリーダーのコミュニティからの応答はサンプリング依頼に応じてくれるものであり、レポートできた事を嬉しく思っています。

研究を紛らわしくする様な診断ミスを避けるために、最初の研究の焦点は、多くの州のキャッテリーに疾患猫を出した、ある一つの家系の3世代にわたる猫達に当てられました。より遠縁になった猫達に於いては、症状は多様性を示し、このような多様性は、この病気のヒトでのタイプと一致しています。けれども、他の遺伝子に生じた可能性のある変異とも一致していました。(訳者注:同様な症状を示す他の遺伝子の変異の可能性もあるという意味)最初のファミリーの遺伝子変異がひとたび同定されれば、研究は他の猫達にも広げられるでしょう。

研究の現在と、今後の計画

2頭の5カ月の子猫の組織の検査で、原因は運動神経の消失であることが明らかにされました。Fyfe博士の最初の努力は臨床症状、組織の病理学的所見からこの病気を特徴づける事でした(SMAという病気を他の病気ときちんと区別して診断すると言う意味)。そして、現在は以下に示すような事に焦点をあてて、研究なさっています。

90個の受精卵を2頭の罹患猫の配偶子(卵子と精子の意)から体外受精で作製しました。これらの受精卵の1/3はシンシナティ動物園の絶滅危機種の研究者であるBill Swaanson博士により、保存されています。いくつかの受精卵は発達にともなう神経変性の様相をより詳しく調べるために、代理母である猫に移植されました。しかし、受精卵移植はまだ成功していません。

遺伝子診断法を開発するために、最も大きな問題となるのは、罹患猫のどの遺伝子が異常になっているかを決定する事です。現在、Fyfe博士はヒトで主要なSMAを起こしている遺伝子が、メインクーンのSMAを起こしている異常遺伝子と同じであるかどうかと言うことをテストしていらっしゃいます。罹患猫と血縁関係にない正常な猫のDNAの比較から、家系診断でその遺伝子が関与しているかどうかを確定する事が出来るであろう遺伝子座の差異が存在することが示唆されました。

Fyfe博士は罹患猫やキャリアの猫、キャリアではないと思われる猫(それは、2世代以上に渡って健康な子孫を出しており、現在キャリアと確定している猫- 現在3頭いますが、この猫と交配した場合に罹患猫が生まれていない猫)との皮膚のサンプルを集めようとしていらっしゃいます。この様なサンプルは最初の病因候補遺伝子の検査に、さらにはその遺伝子に関与している遺伝子の検査にももちろん使われるでしょう。こう言ったサンプルを使えば、現在凍結サンプルや保存組織を使ったのでは出来ない研究が出来るようになるでしょう。Fyfe博士は「RNAを取る材料として、また実験室のフラスコの中で、タンパクを作らせる材料として、生きた組織を採取する事で、猫達に不自由な思いをさせることなく、長期間”in vitro”(生体を使わないで、試験管内でという意味)で実験を行うことが出来るでしょう。」おっしゃています。猫達は処置の間、眠らされ、科学に貢献する見返りとして、その間に歯石を除去してもらえ、49項目もの検査が受けられるでしょう。

訳者注釈:皮膚の提供に協力をお願いする文章です。麻酔をかけて、皮膚を少し提供してもらう変わりに、歯石をとってもらったり、血液検査をして貰えると言うことです。少量、恐らくはほんの数ミリ角採取された皮膚は、組織培養の方法を使って、シャーレの中で大量に増やす事が出来ます。そうやって増やした細胞から、DNAやRNAと言った遺伝子解析に必要な物質を抽出する事が出来ます。特にRNAはとても不安定な物質なので、生きた細胞から手早く抽出する必要があるのです。



4)SMAに関する書簡集

以下の手紙は個人に向けて、かなりラフな英語で書かれたものなので、原文に即した訳を付けることは出来ませんでした。文章のトーンを大切に、私の解釈で日本語に直した部分も多々あります。大意は変えていないつもりですが、この点をご了承下さい。

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Fiye 博士よりDew Sue へ

彼らは、実に愉快な2頭の子猫達でした。Claytonは特に会った人みんなに信じられないほどなつっこかった。それは確かに死ぬ前後で、私たちが見てきた同じ病気に見舞われていました。私は、まだ彼らとともに付いてきた家系図の情報を整理しています。個々のチェックのために、この子猫達の親のフルネームと、同腹の全ての子猫達の数と雄雌をメールで送り返して下さい。以前に子の組み合わせて、ブリードしたことがありますか?もしそうなら、何頭子猫が生まれて、雄雌は何頭で、その子猫達はみんな正常でしたか?

あなたが何を計画し、何を考えているかは分かりませんが、この同腹の兄弟達を彼とブリードす仮定しましょう。それは全く危険を伴うアイデアです。現在の常染色体劣性遺伝形式をとる考えかたからすると(それは、私の考えではまず確かだと思っています)、彼は67%キャリアで、あなたが考えているような、50%ではありません。もし彼がキャリアなら、彼は悪い遺伝子を彼の子孫に平均して半分移行させるでしょう。もしあなたが彼をキャリアでない雌にだけブリードしても、それによって病気の子猫が生まれて来るようになります。彼はメインクーンという猫種の中に悪い遺伝子の割合を増やす事になるでしょう。それを防ぐ唯一に方法は彼をブリードしない事でしょう。もう一の方法は、あなたはその気になれば、多分そうならないだろうけれど、私はとがめはしませんが、それは、彼を”テストブリード”することです。彼の母猫はキャリアです。もしあなたがこの子を彼の母猫に掛けもどすか、他のキャリアの雌に掛けることです。11頭の子孫の中に病気の子が生まれなかったら、(それは、何腹も取ってみてですよ)、あなたは彼が95%キャリアでないと言うことが出来るでしょう。もし11頭以上の子孫でノーマルなら、もっと確かに彼はキャリアではないでしょう。一頭でも病気の子が出たら、直ちに彼はキャリアと言うことになります。私自身が知っているキャリアの猫を公表する気はありません、もし広く人々がそうしたら、猫の母親や父親が一般に明らかにされたら、他のブリーダーはあなたがテストブリードデータを示さないと、彼とブリードしないでしょう。

私は明日始まる新学期で教えるための準備に忙しいです、けれど、情報を得たら、あなたにお知らせします。 私にあなたの様な方々がこのことについて考え、どんな風に望むか言って下さい。私はメインクーンのブリーダーや獣医や、他の研究者達に広めようと、知見を集めています。
(訳者注:以下の部分はノルウェエージャンフォレストキャットでグリコーゲン蓄積病が見いだされ、問題になった時の博士の体験談であり、それはメインクーンのSMAとは異なる病気のでの話であることを、ご留意下さい。)
フォレストキャットの人たちは私の論文を今の様な段階でニュースレターで流してくれました。DNAに基づいたキャリアテストが郵便で受け付けられる様になった時、私はネットやニュースレターでアナウンスしました。私が幾つかの情報をブリーダーリストに送りました。ナショナルフォレストキャットショーで発表もし、多くの質問にも答えました。そこには、私の意見を間違って解釈して、猫の名前を明らかにしないために、特定の人たちをめがけて、沢山の罪のなすりあいがありました。私はブリーダー達が自分自身のキャリアの猫の名前を公表する事は、理にかなったことで、それらに猫はッブリーディングプログラムから外されるか、上記で説明したようなテストを受けるべきだと思っています。それは、そうですが、キャリアが明確に同定出来るようになるまで、キャリアの祖先達に罪を着せることは、不当なことです。というのは、そこには多くのインブリードのループがあるから、悪い遺伝子を特定できない、、、

この2頭の猫を提供して下さってありがとうございます。私は彼らから、その組織を調べた時、役立つ知見が得られ、学べると期待しています。今ブリーダーにとって、最も良いことは、避ける事の出来る問題があると、言葉にして言う事です。強くなって、他の人達のように無視したり、知っていて、埋めかくしたりする誘惑に惑わされないで下さい。私は出来る手助けは何でもするつもりです。

敬具

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訳者の主張
 正常な猫とSMAキャリアの猫とで、なんら変わりはなく、見た目に正常なら、いったい何が問題になるというのでしょうか?当面、近親交配さえ避ければ、この病気を発症する猫は直ぐには生まれて来ないでしょう。

 けれども個々のブリーダーのレベルでではなく、メインクーンという猫種の全体の健全性を考える上では、大きな問題になると思います。特に日本では、メインクーンのラインはアメリカに比べてはるかに少なく、それ程頻繁に新しいラインの猫が入って来る訳でもありません。結果的にかなりクローズドなグループとなって、交配を重ねて行く事になるでしょう。そういった事を思えば、数世代を経た後に、偶然にキャリア同士の猫を交配してしまう事は充分に起こり得るでしょう。そして既にその時には、キャリアの猫の数そのものが増えて広がっている可能性がありますから、極端な事を言えば、日本のメインクーンという猫種全体に、この病気が多発すると言うことになってしまう可能性だってあると思います。

 不運にもキャリアの可能性がある猫を持ってしまたブリーダーはどうすれば良いのでしょうか?その子をブリーディングプログラムから外してしまう事がベストだと思います。もしくは、自分の責任の範囲内でそのラインを維持しながら、外に出す子には全て、避妊、去勢をしてもらうことで、キャリアの猫が増えないようにする事が出来るでしょう。診断法さえ確立されて、キャリアでないことがはっきりすれば、以後ブリード・ショータイプとして、維持していたその子孫を世に出すことに何の問題もありません。

 一般の猫好きの方々、これからペットとしてメインクーンを飼ってみたいと思っていらっしゃる方々に是非理解していただきたいのは、その猫が例えキャリアであったとしても、決して病気ではないと言うことです。この病気に関していうなら、キャリアの猫は、生涯を通して、この病気を発症することなく、普通の猫として一生を送ることが出来るでしょう。コンパニオンアニマルとして、ご家庭で可愛がる事になんの支障もないでしょう。

 ブリーダとしてやってはならないこと、それは親猫がSMAのキャリアの可能性があることを知りながらに、当面、異常な子猫は生まれないからと言って、その事実を無視し、生まれた子猫を何の制限も付けず世に出すことだと思います。そうやってSMAの遺伝子をまき散らすことは、メインクーンの品種としての健全性を危うくする事になるでしょう。

 恥ずべき事は、同じメインクーンのブリーダーでありながら、他のブリーダーに降りかかったこの不運を逆手にとって、あたかもそのキャッテリーが悪いキャッテリーのごとく、噂をまき散らす事だと思います。きちんと自分の猫の現状を知って、それなりの対処をし、既に外に出た猫とそのオーナーに対して、正しく事実を告げケアしている方々は、ブリーダーとして、賞賛に値する立派な方々だと思います。そして、そういう方々を支持する事が、メインクーンという猫種を大切に思うブリーダーのあるべき姿だと思います。


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