猫の血液型不適合について


 The Winn Feline Foundation のレポートと、メインクーンインターナショナルという、イギリスで出版されている、メインクーン愛好家の雑誌の記事を基に、私なりに猫の血液型についてまとめてみました。私の専門は遺伝学ですので、特に集団遺伝学的見地に立って、この問題を考えてみると、猫種によっては、かなりの頻度で、母子間の血液不適合が子猫の新生児期の死亡の原因になっているのではないかと、思われます。

 上記の参考文献においても、述べられていますが、血液型そのものは、決して病気ではありません。血液不適合によって、血尿や貧血、黄疸といった症状(病気)が起こり、新生児期に子猫を死に至らしめますが、正しい知識を持ち、対処すれば、子猫を健康に育て上げる事が、出来るのです。

 「この母猫から生まれた子は、どういう訳か、数週間のうちに、原因不明で、次々と死んでしまうわ。」という、悲しい経験をなさった方に、その全てが、血液不適合が原因と言うわけではありませんが、原因の一つとして、参考にし、お役に立てて頂ければ幸いです。

                     新本美智枝


子猫の死亡原因

 Scott らによる1976年の、800リター、3000匹を超える子猫の調査では、生まれて一年以内の子猫の死亡率は 34.5%で、10%は死産、15.2%は、一週齢以内の死亡です。また、Youngによる、感染の影響を調べるための疫学的調査においても、離乳前の死亡率は 15%で、そのほとんどは一週齢以内の死亡です。もちろん、このような子猫の3%は、死産によるもので、明らかな奇形が24%、肺炎のような感染症による死亡が12%ですが、のこり62%は、理由が分からないケースなのです。

早期の子猫の死亡原因は、


 不適切な環境によるもの、
 母親が世話をしない、または食べてしまう。
 初乳やミルクや、特定の栄養素の不足
 敗血症や肺炎といった感染症
 代謝異常や、免疫欠損
 新生児溶血

といったものがあります。

 最後の新生児溶血が、いくつかの品種の猫においては、子猫の主な死亡の原因として、認識されるようになってきました。新生児溶血とは、新生児の血流に入り込む母親からの抗体よって、子猫の赤血球が破壊されることです。猫では、その抗体は、初乳を介して、子猫の血流へと入って行くのです。>

猫における血液型と血液不適合

 新生児溶血について理解するためには、まず血液型について、知らなければなりません。

 猫の血液型はA型とB型とがありますが、O型はありません。これはヒトのA B O式血液型とは全く異なるものなのです。(ヒトの血液型についての詳しい解説は、私どものホームページ中のここをご参照下さい。)

 血液型というのは、赤血球の細胞表面にある物質の違いと、それに対する抗原抗体反応に基づいて分類されるものです。そして、猫の場合、同じA型、B型と呼ばれても、赤血球表面の血液型を決定する物質は、ヒトとは全く異なった物質なのです(ただ、それが具体的にどういう物質かは、まだ確定されていないようです。)。抗原抗体反応(免疫)とは、そもそもは、外部から異物(自分自身にはない物質)が入ってきた時に起こる防御機構の一つです。B型の猫は、自分自身の赤血球表面にB型物質(B抗原と言います)は持っていても、A型物質(A抗原)は持っていないので、A抗原が何らかの形で体内に入ってきたとき、これを異物として認識し、抗A抗体を作ります。同様にA型の猫は、B抗体を作るのです。そして、これらA、B型抗原は、猫の赤血球表面だけでなく、実は自然界の中の色々なところに存在していて、たとえ猫同士の接触がなくても、猫は、いつのまにかそれらの物質に接触していて、それぞれ、自分にはない型の抗原に対して抗体を持つようになるのです。

 そこで問題となるのは、抗原の強さです。A型抗原はB型抗原に比べると、とても強い抗原です。ですから、もしB型の猫(抗A型抗体を持っています)に、A型の猫の血液を輸血したら、激しい免疫反応が起こり、その猫は死亡してしまいます。ところがB型の抗原はそれほど強い抗原ではないので、A型の猫(B型抗体を持つ)にB型の猫の血液を輸血しても、さほど問題は起こらないのです。

血液型の遺伝様式

 赤血球表面にある血液型を決定する物質が、ヒトと猫では違うように、血液型の遺伝様式もヒトと猫では違います。猫の場合はA型とB型物質の遺伝子は同じ染色体上にあり、A型が優性、B型が劣性です。A型の突然変異でB型が出来たと考えられています。それぞれの血液型を遺伝子型で表現すると(A型の遺伝子をA、B型の遺伝子をbとします)遺伝子型がAAでもAbでも、猫はA型の血液型を示すのです。血液型がB型になるのは、遺伝子がbbとなったときです。ごく稀にAB型(赤血球の表面に、A型物質も、B型物質の両方が存在する)の猫もいるそうですが、どうしてそうなるかは不明です。

 B型の猫の割合は、品種によってかなり異なります。300匹以上サイアミーズ、バーミーズ、オリエンタルショートヘアーが調べられましたが、これらの品種の中には、B型の猫はいませんでした。それぞれの品種50頭以上を調べた結果では、

1〜5% B型:メインクーン、マンクス、ノルウェージャンフォレストキャット

10〜20% B型:アビシニアン、スコティッシュホールド、ペルシャ、ジャパニーズボブテール、バーマン、ソマリ

25〜50% B 型:ブリティッシュショートヘアー、デボンレックス、コーニッシュ レックス

だそうです。

 例えばメインクーンのように、いたとしてもB型はたった1〜5%なら、大した問題でないと、思われるかも知れません。けれども、集団遺伝学的考察をすると、B型の猫(bb)が1%いると仮定した場合、メインクーンの血液型の遺伝子全体では、1/10がb ということになるのです。B型の血液型として表に現れるのは、遺伝子型がbbとなったときですから、確率の計算をすると、1/10 x 1/10 = 1/100(1%)ということです。更に、遺伝子型がAbとなる確率は、1/10 X 9/10 x 2 =18/100 つまりはA型と思っていても、実に全体の18%の猫が、b型の遺伝子を隠れ持っているわけです。これがもしB型が 5%いるとして計算すれば、全体の約 35% 猫が、血液型はA型でありながらb型の遺伝子を隠れ持っていることになります。そして、こういったb遺伝子を隠れ持った猫同士を掛け合わせると、うちの子はどちらもA型だからと思っていても、B型の子猫が生まれたりするわけです。その関係は、タビー同士の猫から、突然ソリッドの猫が生まれるのと同じ原理です。うちの子はみんなA 型だから大丈夫などとは、言っておられません。ある程度の頻度でB型がいる品種の猫では、繁殖させようと思っている雌猫は、あらかじめ、血液検査を受けておく方が安心でしょう。もし母猫がB型であっても、それさえ分かれば対処法もあり、無為に生まれてくる子猫が死んでしまうのを、防ぐことが出来るのです。

新生児溶血はなぜ起こる?

 話を新生児溶血にもどしましょう。母子間の血液不適合が問題になるのは、猫の場合、生まれて初乳(最初に母親が出す母乳で、そこには子猫を感染から守るために多くの抗体が含まれています。)を飲む、最初の3日間程が問題なのです。

 生まれたばかりの子猫は、まだ腸の壁が完全には出来上がってないので、かなり大きな物質でも、消化酵素で分解される前に、腸の壁を通して、体内に取り込んでしまうのです。ですから、初乳中の母親からの抗体も、そのまま子猫の体内に取り込まれます。生まれてすぐの子猫は、まだ自分では抗体を作ることが出来ないのですが、こうやって腸から取り込まれるお母さんの初乳中の抗体によって、様々な微生物の感染から守られているのです。

 けれども、この素晴らしい防御機構が災いして起こるのが、新生児溶血なのです。様々な有用な抗体と供に、血液型を認識する抗体も子猫の血流の中に入ってきます。そしてB型の母猫とA型の子猫の組み合わせの場合、とても重篤な問題になるのです。つまりB型のお母さんの持つ抗A型抗体が、子猫の腸を通過して、子猫の血流中に入り、A型の子猫の赤血球に結合して、その結果子猫の赤血球が破壊されてしまうのです。

 ところが逆の場合、つまりお母さんがA型の場合、そのお母さんが持つ抗B型抗体はそんなに強くないので、それほど問題は起こりません。ですから母猫がB型の場合だけ、注意して、対処すれば良いと言うことです。また、子猫の腸壁は、生後3日を過ぎう頃から、その透過性が変わってきて、もはや大人の猫と同じように大きな物質は通さなくなります。消化酵素によって分解され、小さくなった物質しか通さなくなるのです。従って、母乳中の抗A 、抗B抗体もそのままでは吸収されず、消化され小さな分子になってから吸収されるのです。そうなれば、これらの抗体は抗体として働くことは出来ず、ただの栄養源になるだけです。ですから、生後3日間をどう対処するかが、血液不適合を起こす可能性のある子猫にとっては、とても大切なのです。

血液不適合による新生児溶血の症状

 それでは、具体的に母子間で血液不適合が原因で、新生児溶血が起こったら、子猫にどう行った症状が現れるのでしょうか。子猫は、生まれたときは元気でとても健康です。けれども最初の哺乳の数時間後から数日後に症状は現れます。授乳を続けるに従い、子猫はひ弱になり、落ちつきがなく、体重が減少します。特徴的なのは血尿、貧血、黄疸、そして尻尾の先の壊死です。この尻尾の先の壊死は、生後1〜2週間で起こり、その原因は、尾の先端の細い血管が詰まって、血液が尻尾の先まで行かなくなるからです。そして、症状はだんだん重くなり、やがて子猫は死に至ります。けれども不思議なことに、B型の母親の全てのA型の子猫が、このような症状を示す訳ではありません。ごく希に、このような血液型の組み合わせの母子でも、全く子猫に症状が出ない場合もあるのです。それは母親の初乳の抗体量が少ないか、子猫によって、腸での初乳の吸収が極端に少ない場合だと考えられています。

血液不適合の対処法

 子猫に溶血が起こっているかどうかを調べる簡便な方法に、脱脂綿テストがあります。ブリーダーは2時間ごとに、生まれた子猫の身体をマッサージして、尿を出させ、それを白い脱脂綿に注意深くしみ込ませます。正常な尿は、ほとんど無色です。もし褐色の色が観察されたら、それは溶血による血尿が出ているという事ですから、その子猫は直ちに母親から離して、獣医さんに連れていき、処置をしてもらいましょう。けれども、この方法は、実はたいていの場合、もう遅すぎるのです。血尿が出始めた時点で、溶血はかなり進んでおり、その時点で母親からの哺乳を中止しても、既に子猫の体内には、かなりの抗A抗体が入り込んでいるのです。

 最も良いのは、生まれて最初の約3日間、血液不適合を起こす可能性のある子猫には、母乳を飲ませないことです。出来ることなら、約一週間早くに、A型の雌猫に子猫を産ませておき、B型の母親からのA型の子猫と、その母猫の子とを交換し、哺乳させるのです。生まれて一週間経った子猫の腸壁は、もう抗体を、そのまま通過させることは出来ません。従って、B型の母猫の抗A抗体が入った母乳を飲んでも、大丈夫なのです。そうやって最初の3日間を代理母に預けた後、子猫をそれぞれ、基の母親に戻してやれば良いのです。けれども、必ずしもうまく繁殖計画が進むとは限りません。その場合は、大変でしょうが、最初の3日間を人工哺乳に切り替えることです。そうやって、生まれてから初めの3日間をうまくやり過ごせば、その後、子猫達をお母さんの母乳に戻しても、元気にすくすく育っていくことでしょう。

あとがき

 血液不適合による新生児溶血を防ぐには、まず第一に、母猫となる雌猫の血液型を調べておくことです。そして、もし雌猫がB型なら、B型の雄を選んで繁殖させるのです。そうすれば、B型の子猫しか生まれませんから、問題はありません。けれども、実際問題として、B型の雄を選ぶのも大変です。いっそB型の雌は繁殖させないのが、最も簡単な方法でしょう。けれども、猫種によっては、B型の頻度はかなり高いので、そんなことをしていては、繁殖に使える雌猫は限られてしまいます。また、その品種として、とても良い面を持っている雌猫だったら、是非繁殖させ、子猫を取りたいと思うのは、特にショーキャットのブリーダーとしては、当然の事でしょう。

 血液型は病気ではないのです。きちんとした知識と、対処法を知っていれば、子猫を健康に育て上げることは可能なのです。それにどれだけ手間がかかるか、そこまでしてでも、その雌猫から子猫を取りたいかどうかは、ブリーダーの一人一人が母猫の価値を見極めて、それぞれの責任において決断すべき問題だと、私は思います。そして、責任あるブリーダーとして、きちんと自分のブリードラインの猫の血液型を記録し、子猫の新しいオーナーに、b遺伝子を持っていることを伝えていくことだと思います。

 獣医さん達のグループが作っているあるホームページで、日本では猫の血液型検査は、どのくらい普及しているのか質問してみました。血液型を調べてくれる機関は、日本には一カ所だけあって、獣医さんを通して採血してもらい、そこへ送れば調べてくれるそうです。まだ、個々の獣医さんが直接調べられるような血液型検査キットは、日本にはないそうです。けれども、彼らは、もっと、ブリーダーの方々がこのことを知って、繁殖する猫の血液型を調べてくれれば、検査そのものがもっと普及して、検査費も安くなるだろうし、是非そういう方向になって欲しいものだと、コメントしてくれました。

参考文献

Vrs Giger. Blood Type Incompatibility and Kitten Mortality. Summary prepared by Diana Craden. The Winn Feline Foundation Report (http://www.winnfelinehealth.org/reports/blood-type.html) 1997-1998

Pia-Maria von Gransbuch. Blood Groups Some Implications for Breeders. MaineCoon International Issue 18:2 p.12-13 1998