【Cat Fanciers' Almanac May 1999, p96-97 訳:新本美智枝,新本洋士】
The Winn Feline Foundation報告

第1回国際猫遺伝病会議


(4月25-28日1998年,ペンシルベニア大学,フィラデルフィア)

Susan Little DVMによる報告

 メインクーンキャットにおける遺伝性肥大型心筋症(HCM)に関する二人の先駆的な研究者は,カリフォルニア大学デービス校のMark Kittleson博士とオハイオ州立大学のKathryn Meurs博士である。両研究者は猫遺伝病会議でHCMの報告をし,獣医やブリーダーたちの質疑応答セッションを行った。

 Kittleson博士の講演はまずヒトのHCMの概要から始まった。それは常染色体優性遺伝形式を取ることが知られており,大人になって発症する病気である。近年,7つの遺伝子の中に100種類以上のヒトのHCMに関する遺伝子変異がみつかっているが,臨床的な兆候や病気の進行はしばしばよく似通っている。最も一般的な遺伝子変異は,個々の心筋細胞の中にある集合した筋肉蛋白質の構造(βミオシン重鎖)遺伝子のなかのひとつの変異に関連した欠損である。ミオシンは筋肉細胞の蛋白質の全体の約65%を占める蛋白質である。それは側鎖どうしで互いに結合したポリペプチドの集合体の長い鎖からなっている。ミオシンは,心筋を作るために関与している蛋白質の一つである。

 猫においてはHCMはもっとも一般的な心臓病である。たいていの猫はその臨床的症状が現れるのが,中年であるが,1歳くらいの若い患者や13歳以上の患者もみつかる。重症型のHCMと心疾患を持った平均的な患者は,治療してもほんの数ヶ月生きられるだけである。

 メインクーンにおけるHCMの研究は,コネチカットの猫の飼い主であるMarcia Munroが彼女のHCMになったメインクーンやその血縁猫たちについてKittleson博士に連絡をとったことが始まりであった。研究のためのコロニーを作るために,そのキャッテリー由来のすべての猫たちについて,超音波検査が行われ,1頭の病気でないオス猫と3頭の病気のメス猫を交配させた。このコロニーにおいては3ヶ月から6ヶ月齢で超音波検査を始め,4ヶ月から8ヶ月ごとに超音波検査が続けられた。交配記録はHCMが常染色体優性遺伝形式でこのコロニー内で遺伝したことを示していた。ある疾患を持った猫と他のどんな猫との交配でも,常に一つのリターの中から少なくとも1頭の疾患を持った猫が生まれてきた。オスメスともに同数の猫が疾患を持っていた。このKittleson博士のコロニーにおいて,病気を持った猫と持ってない猫との交配実験では,1歳以前にHCMがみつかった猫はいなかった。この病気は2歳までにしばしば兆候が現れ,2歳から4歳までにとても重症になる。オス猫はより重症であり,より若いうちに発症する。病気を持った猫どうしを交配させた時には,HCMは3ヶ月より早くに現れ,6〜18ヶ月までに重篤な症状が生じ,オスもメスも同じ様に症状が進んだ。一般的な猫の集団においては重症のHCMを持った猫はその病気のために死亡する。オスのほうが多く死に,その猫が突然死するまで何の症状を示さないこともある。

 Kittleson博士は超音波で診断できるようなメインクーンにおけるHCMの特徴を見いだしている。特に二つの変化,すなわち僧帽弁(左心房から左心室への弁)の収縮期の内部の動きと乳頭筋肥大がHCMのメインクーンによくみられる。Meurs博士は猫のHCMについての遺伝的欠陥がヒト(たとえばβミオシン重鎖においてのように)のそれと類似する可能性について検討した。しかしたいていの猫ではβミオシン重鎖における遺伝的な差異はあったが,蛋白質の産生に影響するような差ではなかった。現在その他の遺伝子,心筋における収縮性の構成成分(収縮のために組み立てられている蛋白質)の一部をなしている蛋白質のそのほかの遺伝子に研究対象が変わってきており,それらの成分のうちのひとつが家族性の猫のHCMに対応するかどうかを決定するための研究が行われている。そのような遺伝子のなかには,ミオシン軽鎖とミオシン結合蛋白質Cの遺伝子が含まれている。ヒトでは初期に乳頭筋の肥大をもたらすようなミオシン軽鎖の欠損によるHCMはまれである。

 Kittleson博士はアメリカンショートヘアーを含め,他の猫種におけるHCMにも注目している。アメリカンショートヘアーにおけるこの病気も常染色体優性の遺伝子形式を取るが,しかし症状はそれほど重くはない。

 Kittleson博士のメインクーンの繁殖のためのスクリーニング(検査)の勧告は性別によって異なる。彼はオス猫は2歳以上に検査することを勧めている(というのは,オス猫たちはしばしばより早期により重症になるからである)。メス猫については,もっと後,おそらくは3歳か4歳に検査することを勧めている。初期の変化(たとえば左の乳頭筋の肥大)は訓練されていない獣医は超音波検査で見逃してしまう可能性があるため,メインクーンにおけるHCMの特徴的な症状をよく知っている獣医に検査を依頼することが大切であることを強調している。

「以下引用文献省略」