簡単な猫の毛色のお勉強
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猫の毛色、一般的な日本猫、メインクーン、アメリカンショートヘアーなどの毛色については,メンデル遺伝学で簡単に説明できます.ただ,対立遺伝子の強弱が2種類ではなく,3種類,4種類ある場合もあって,一見複雑に見えます.ここでは,基本的なメンデル遺伝学と伴性遺伝についての基礎的な知識があるものと仮定して記述します.もし遺伝学の基礎を忘れた方がいらっしゃったら,生物の教科書を引っぱり出しましょう.でも,最近では生物を履修しなくてもいい学校があるようですから,その時は,高校の生物の参考書を買って下さい. 猫の野生型というのは[サバトラ]あるいは[キジトラ]と言われるような,ブラウンタビーの猫です.日本猫によく見られるマッカレルタビー(サバトラ)と,アメリカンショートヘアーなどに見られる派手なクラシックタビー(ブロッチトタビーとも言います)があります.最近ではクラシックタビーの日本猫もみかけます.
縞猫の毛は,良くみると,根元,中間,先端,と,染め分けができています.これをアグチと言います.アグチというのはネズミのなかまの名前で,その毛色の染め分けから,猫の毛色についてもアグチという呼び名が使われます.アグチ遺伝子(A)のある猫は縞猫になります.ノンアグチ(aa)の猫は単色になります.で,野生型だと,タビーが消えて,黒猫になります. じゃぁ黒白猫はどうなんだ?これはS遺伝子というのがあると白スポットが入るそうです.SSのホモ接合体だと白が多くなるそうです.したがって黒猫はssです.ブチ猫(ウィズホワイトあるいはアンドホワイトと呼びます)はSを持っている,これがポイントです. ブチ縞ネコ3匹。 それじゃぁ白猫はどうでしょう.全身を白くするW遺伝子はどれよりも強烈な優性遺伝子です. Wを持った猫は白猫になります.メラニン合成をしない猫です.メラニンを作るメラノサイトは,耳の機能生成に関係しているそうで,白猫のあるものは,耳が聞こえない(両耳,あるいは片耳)ことがあるそうです.白猫以外の猫はwwのホモ接合体です. 赤猫(レッドタビー,明るい茶色の縞猫,チャトラと呼ばれることが多い)もいます.これはO遺伝子による色です.wwでOがあると,A遺伝子の型に関係なく,赤い色になります.赤い部分には必ず縞が入ります.レッドタビーの猫です.赤単色の猫はまずいません.ここにSがあると,白が入り,レッドタビーアンドホワイト(茶トラのブチ猫)になります.ただし,O遺伝子はX染色体の上にあります.雄でOを持っている猫は必ず茶(赤)が出ます.雌は,OOのホモだと雄と同じ結果になります.Ooのヘテロ接合体の場合がややこしいことになります. X染色体というのは,発生の途中で,ふたつのうち,どちらが発現するかが選択されるのだそうです.Ooの雌は,体の中である部分ではO遺伝子,別のある部分ではo遺伝子が発現したのモザイク状になっています.したがって,アグチ(A)の猫の場合には,Oのところには茶(赤)のタビー,oのところにはブラウンタビーが出て,2毛猫となります.ブラウンパッチトタビーです.もしこの猫がSを持っていたら,白ブチが入って,3毛猫になります.ブラウンパッチトタビーアンドホワイトです.もしノンアグチ(aa)だったら,Oのところは茶のタビーで,oのところは黒になってこれも2毛(トータシェルあるいはトーティー)です.Sを持っていれば典型的な3毛猫となります(トーティーアンドホワイト,あるいはキャリコ).雄ではこれが起こらないので,2毛や3毛はほとんど生まれません. このほかにアビシニアンのような全身霜降りで尾にタビー(ティックトタビー),豹のような斑点が出るスポッテッドタビーもあります.日本猫が25%も所有しているというポイント(シャム猫の耳鼻手足尾に色が付く遺伝子),アメリカンショートヘアーで流行ったシルバー遺伝子,ダイリュート遺伝子によるカラーもあります.さらに,基本色の黒(アグチが入ればブラウンタビーになる)のほかに,アビシニアンのレッドやシャム猫のライラックを作るカラー遺伝子もあります. 雌猫が子供を連れている時,その父親を想像することができます.なかなか面白いですよ.
写真のこのうちの雌猫は ww,oo,A−,S−,T−,ll この猫の遺伝型を想像してみましょう.ww…全身白猫ではない.oo…赤猫ではない.Aはアグチである.両親ともアグチなのでおそらくAAでしょう.白いところは少ないので,おそらくSsのはず.タビーはマッカレルタビーTですが,親の片方がクラシックタビーなのでTt(このtはtbというクラシックタビー遺伝子)でしょう.llは毛が長いので,ロングを抑える遺伝子の劣性ホモです. この雌猫のお相手の雄猫は…
ww,oy,A−,S−,tt,ll です.どんな子供が生まれるでしょうか? 実際に生まれたバンタローは ww,oo,A−,SS,Tt,ll でした.白い部分の多いブラウンマッカレルタビーでした.バンタローがSSであることは,Sを持っていないシャイニンとの掛け合わせで,すべての子猫がウィズホワイト(Ss)であったことからわかります. 毛色について詳しく知るには,裳華房というところからでている,野澤謙先生の[ネコの毛並み−毛色多型と分布−]という本が役に立ちます.野澤先生は[動物の遺伝学的フィールドワーク]が専門で,現在はアジア在来家畜の起源と進化についての研究をされているそうです. 壁画に描かれた猫,浮世絵に描かれた猫などの毛色から遺伝情報を読みとり,猫の伝来の経路を推測したりもしています. 古事記,日本書紀には,猫が登場しないどうです.万葉集にも猫は出てこないそうです.西暦705年頃の文献に父親が死んで猫に生まれ変わる,という記述が現れ,889年には唐から渡来した黒猫を先帝から譲り受けた,という宇田天皇の日記があるそうです. 日本人は1000年以上にわたって猫とつきあってきたようですが,その前には,ひょっとすると猫(イエネコ)はいなかったのかもしれません.猫は貯蔵穀物をネズミの害から守るためのきわめて実用的な動物として飼われていたのかもしれません.しかし,古墳から猫の骨は出ているんでしょうか?犬はどうかしら? 面白いのはアメリカで,猫(イエネコ)と交配できるような猫はアメリカ大陸にはいなかったらしい.ですから,アメリカにいる猫はみな旧大陸から移住した人間が持ち込んだ猫の子孫です.アメリカで樹立された,もともとは自然発生の猫と言われているメインクーン(うちの猫)も,外見がノルウェージャンフォレストキャット(ノルウェーの長毛猫)によく似ているので,おそらくメイン周の港に立ち寄る北欧の船に乗ってきた猫たちの子孫なのかもしれません. 猫の野生型と言われるのは,褐色の地色に黒い縞が入るものです.これをマッカレルタビーと言います.マッカレルはMACHKERELです.つまりサバです.サバトラ,キジネコ,シマネコ,というような猫ですが,ショー関係では…ブラウンマッカレルタビーと言われる毛色です. 全身シマの猫.けっこういますよねぇ.微妙に毛色や縞の太さが違いますけれど.
マッカレルタビーはT遺伝子によって模様が支配されています.T遺伝子には劣性のt^bがあります.t^bは前にも書いたように,ブロッチドタビー(一般にはクラシックタビー)のもので,劣性ホモ接合体がクラシックタビー猫となります.Tにはもうひとつ優性のT^aがあります.アビシニアンはこれのホモ接合体が固定したものだそうです.つまり,霜降り状のボディーと,尾に縞模様が見られることがあります.
W遺伝子は優性と書きました.猫の毛色を[全身真っ白]にするW遺伝子は,白以外の色を出すw遺伝子に対して優性です.したがってWWもWwも真っ白な猫になるわけです. しかし世の中にそんなにW遺伝子がたくさんあるようには思えません.それほど白猫は多くないからです.W遺伝子の頻度は野澤先生によれば,日本猫の場合,5%以下だそうです. 白猫からはどんな子どもが生まれるでしょうか.WWの猫からは,必ず白猫だけが生まれます. でも,白猫がWWかWwかは見ただけではわからないので,白猫からタビー猫や他の模様の猫が生まれることもあります.しかしその場合でも半分の確率で白猫が生まれるでしょう.
金眼銀眼の猫を見ました.もちろん白猫です.白猫でも光彩には多少色素があって,黄色い眼の色をしていますが,これがまったくメラニン合成をしないと,青い眼になってしまいます.片眼が黄色,片眼が青の白猫はちょっとかっこいい.オッドアイといいます. 英語ではレッド,赤猫と呼ばれる猫がいます.日本では茶トラと呼ばれる明るい茶色の猫です.子猫物語という映画がありましたが,主人公のチャトランは茶トラでした.
これは全身アカネコではなく,Sが入ったアカネコ. O遺伝子はX染色体に乗っています.対立遺伝子はoで,赤が出ません.雄はX染色体にOが乗っていれば赤猫(ただしWがあるとどんな猫も白猫になる),oならそのほかの色になります.Oの面白いところは,アグチであろうが…ノンアグチであろうが,タビー猫にしてしまうことです.日本で見られるたいていの赤猫はマッカレルタビーです.アメリカンショートヘアーでは派手なクラシックタビーのがいます.なかなか愉快な模様です. 雌はOOの場合は赤猫になります.Ooの時がややこしい.これが三毛猫が雌である,ということと関係しています.女性というのはX染色体のモザイク状態(X-chromosome-linked mosaics)なんだそうです.発生の途中で,この部分はこちらのX,ここは他のXという具体に発現するXが決まってくるらしい.それで,Ooの猫は,体のある部分ではOが発現し,他の部分ではoが発現する(つまりOにはならない)ことになります.Oの部分は赤の縞になり,oの部分はアグチならサバトラ縞,ノンアグチなら黒になります.で,これで2毛猫ができるわけです.
2毛猫です。ブラウンパッチドタビーです。この子はマッカレルだからわかりやすいのですが、クラシックのパッチだと、パッチなのか、トーティーなのか判別が難しいかも。 三毛猫は2毛猫に白が入ったものです.この白はWとは異なる遺伝子で,S遺伝子(優性)です.Sがあると白い部分がブチになって入ります.SsよりSSのほうが白い部分が多いですが,その割合は一定ではありません. Ooの雌でSを持っていると,三毛猫のできあがり.雄はOoのモザイクにはなりえないので三毛猫はできません. 気をつけなくてはならないのは,メスのレッドタビーの猫から生まれるオスの子猫は必ずレッドタビーになるということです.オスの子猫は必ずO遺伝子を受け継ぎます.オスのレッドタビーの父親からは,相手のメスによって,オスの子猫はレッド系とブラウン系が出たりしますが,メスの子猫は必ずO遺伝子をひとつは父親からもらいますので,レッド,パッチ,トーティなどの猫になり,ブラックやブラウンタビーが生まれることはありません.ただ,SSを持っている場合でいわゆるバンパターンで白が多い場合には,レッドの部分がSで隠れてしまう事があるかもしれません. ノンアグチでOを持っていない猫は黒猫ですが,Sが入ると白黒ブチ猫になります.
. 白猫でも,子どもの頃はちょっとだけ黒い毛があったりするそうです.黒い毛がある,ということは将来真っ白になるとしても,メラニンを合成する能力があるということで,耳の機能に必須のメラノサイトが役割を果たすことができ,耳がちゃんと聞こえる猫になります.まったくメラニン合成ができない猫は耳が聞こえなくなります. シルバーの日本猫がときどきいます.シルバーの猫は,おそらくシルバーのアメリカンショートヘアーとの混血猫のように思われます.あるいはペルシャのチンチラなどの混血か.ずっと前に住んでいたアパートにときどき遊びに来た[銀ちゃん]は,シルバーのマッカレルタビーでした.シルバーはI遺伝子によって発現する優性の形質です.しかし,WやOよりは弱いので,ww で o でないといけません.I遺伝子はメラニンのうち,フェオメラニン(黄色い)の色を薄くします.ユーメラニン(黒色)には影響がないので,アグチのタビー猫は…シルバー猫になるわけです. I遺伝子がノンアグチの猫に働くと,スモークと言われる毛色になります.一見黒ですが,下毛に白い部分がみられ,旨の部分が白っぽく見えたりします. ww, o , A-, I- というところでしょうか. このほかに色が薄くなるd遺伝子があります.劣性ホモのddは色が薄くなります.黒猫になる遺伝子を持っている猫がddだと,灰色猫になりますが,猫の世界ではこのような猫を[ブルー]と言います.ちっとも青くはないのですが,これをブルーと呼ぶんです.面白いですね.赤猫の場合はクリーム色になります. さて,けっこうそこらで見られるのは[ポイント猫]です.ポイントとは,シャム猫のように,,顔,脚,尾の先端が濃い色,他が薄い色になるものです.ノンアグチだと[シールポイント]…シールはあざらしのことです.アグチだと[タビーポイント]になります.c^s遺伝子は劣性で,c^s c^sのホモがポイント猫になります.C−ではポイントは出ません. c^s遺伝子は24%もの頻度で日本猫にみられるそうです.シャム猫が流行った時期がありましたからその混血のためでしょう.もはやc^s遺伝子は日本の猫に普通の遺伝子となっています.
上の絵の猫の親子では,6頭の子猫のうち,1頭にシールポイントが出ていました.
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